【書評】『奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録』(石川拓治、幻冬舎文庫)
この本。
タイトルがめちゃめちゃ派手ですね。
「奇跡のリンゴ」
「絶対不可能を覆した農家」
「ちょっとタイトル大げさすぎない?」と思ったそこのあなた!
僕も思いました。
実際にこの本を読む前は。
でも、読んだ後は「それは違う」と言い切れます。
圧倒的な熱量。
すさまじいまでの過酷さ。
捨て身で夢に向かった一人の男の話を、涙なしには語れない。
身も心も揺さぶられるこの本の、読後の書評を書いていきます。
本の簡単なあらすじ
青森県のとあるリンゴ農家が、リンゴを無農薬・無肥料で育てることに挑戦した物語。
現代流通しているリンゴは農薬・肥料をふんだんに使うことを前提として、人類が品種改良してきたものである。
農薬を減らせば、たちまちに異常なまでの害虫が集まる。
肥料を減らせば、みるみるうちに木が元気を失っていく。
つまり、無農薬・無肥料でリンゴを育てることは、野獣がうろつき、食べ物も無い荒野に都会慣れした人間を放置するようなものである。
要は、圧倒的に「不可能」に思えることであり、実際にそうだったのだ。
しかし、木村さんは8年間もの苦難を耐え抜き、一つの答えにたどり着く。
「すべてのものは繋がっている」
「人間がリンゴを作るんじゃない。人間ができるのはリンゴの木がリンゴを作る手伝いだけだ」
偶然の出会いをきっかけに彼自身の卓越した自然思想を練り上げ、無農薬・無肥料でのリンゴ栽培を成功させる。
そして、次なる彼の夢は、全国へと広がっていく―
以上が簡単なあらすじである。
所感
あらゆるものが高度に工業化された現代社会に対して、僕がどこか感じていた違和感を、この本は綺麗に言い表してくれている。
木村さんの言葉で、僕の心にぶっ刺さった2つのフレーズを引用する。
リンゴの木は、リンゴの木だけで生きているわけではない。周りの自然の中で、生かされている生き物なわけだ。人間もそうなんだよ。人間はそのことを忘れてしまって、自分独りで生きていると思っている。そしていつの間にか、自分が栽培している作物も、そういうもんだと思い込むようになったんだな。(本文より抜粋)
人間は自分の都合で害虫だの益虫だの言ってるけど、葉を食べる毛虫は草食動物だから平和な顔してる。その虫を食べる益虫は肉食獣だものな、獰猛な顔してるのも当たり前だよ。(本文より抜粋)
どちらも、人間が人間だけに都合のいいように世界を作ってきたことへの痛烈な批判となっている。
地球には、僕ら人間だけでなく、他の動物や、虫や、植物や、目には見えないもっと小さいものなど、数えきれないほどの生命が複雑に関係しあって生きている。
でも、人間はそんなことお構いなしだ。
自分が快適に暮らせて、おいしいものが食べられれば何も気にすることはない。
ある意味で、とても動物の本来的な姿だと思う。
自分たちの最大限の力を発揮して、自分たちの「種」にとって快適な世界を作る。
そのことが、人間という種にとって最も有益な行動である。
しかし、人間は圧倒的になりすぎた。
自分たちの「種」を脅かす存在は、いよいよ本当に存在しない。
このまま力を全力で発揮し続ければ、その他の種を全て駆逐してしまうだろう。
そういうことに人類が気付き、近年では「持続可能な開発目標(SDGs)」といった思想が一定の理解を得始めている。
結局、人間は自分独りでは生きていけない。
なぜなら、人間自身も自然の産物だから。
自然から生まれた食べ物やエネルギーに依存して、人間は生きている。
だから、自然や他の種も含めて、「地球上の命あるもの全てにとって良い」と思える選択をすることが大切なのだ。
本書のテーマである農業からはだいぶピントを広げた話になってしまった。
しかし、僕はこういう観点で、木村さんの思想はこれから絶対必要になるし、求められるものになっていくと確信している。
僕自身も、その思想を行動で体現できる人物になっていこう。
ではまた!